IEEE 802.11n/acの特徴と違い
無線LAN規格である802.11n/acについて自分なりにまとめました。実際に手元のデバイスでもどう使われているのか調査してみます。一次文献は読んでません汗。
無線LAN規格について
802.11a/b/g/n/ac等はアルファベットのaから順番につけられています。acは1文字のアルファベットを使い切ったのでaaから使っています。とびとびなのは、策定されても使われなかったり、通信以外の規格が含まれているからです。
IEEE802.11 | a | b | g |
---|---|---|---|
策定年 | 1999 | 1999 | 2003 |
周波数帯 | 5 GHz | 2.4 GHz | 2.4 GHz |
帯域幅 | 22 MHz | 20 MHz | 20 MHz |
一次変調 | BPSK / QPSK / 16QAM / 64QAM | DBPSK / DQPSK / CCK | BPSK / QPSK / 16QAM / 64QAM |
二次変調 | OFDM | DSSS | OFDM |
MIMO | なし | なし | なし |
IEEE802.11 | n | ac |
---|---|---|
策定年 | 2009 | 2013 |
周波数帯 | 2.4 GHz, 5 GHz | 2.4 GHz |
帯域幅 | 20 / 40 MHz | 20 / 40 / 80 /160 MHz |
一次変調 | BPSK / QPSK / 16QAM / 64QAM | BPSK / QPSK / 16QAM / 64QAM / 128QAM / 256QAM |
二次変調 | OFDM | OFDM |
MIMO | 最大4ストリーム | 最大8ストリーム |
帯域幅と変調方式とMIMO
帯域幅は1回に送れる周波数の幅です。広いほど一度にたくさん送れますが、ノイズに弱くなります。
変調方式には一次変調と二次変調があります。一次変調で情報を乗せる1つの波(サブキャリア)の形を決めて、二次変調は複数の波を同時に送るために行います。1つの波に乗せる情報量が多いほど、同時に送る波が多いほどbit/secondが出ます。変調の話は下記のサイトでわかりやすく説明されています。
ここまでで1ストリームです。
MIMOはさらに複数ストリームを送れる技術です。gから1人だけですが同時に複数ストリームを送れる様になり、acでは複数ユーザでも送れるようになりました。それぞれのストリームで同じ周波数帯を使っていても頑張って分離します。
したがって、acにおける理論値の6.9Gbpsというのは、帯域幅を160MHzで最も情報を載せられる二次変調256QAMにしてMIMOで8ストリーム同時に送り出す、という欲張りセットにて実現します。
nとac
acはnに対して上位互換性を持っており、機能も基本的には同じです。acはnの改良と言えます。なので、nしかない環境でもデバイスがacに対応していれば接続可能です。
また、acにはWave1とWave2という世代があります。注意したいのは、acにはIEEEが認定した「IEEE 802.11ac」と、無線LANの業界団体Wi-Fi Allianceが認定した「Wi-Fi CERTIFIED ac」の異なる2つの規格があり、Wave1(2013年)やWave2(2015年)を定めているのは後者の規格ということです[5]。Wave1と2はそれぞれ、IEEE802.11acのdraft3と完全版に対応しています。おそらく、802.11acを段階的に普及させるために、Wi-Fi Allianceが2世代に分けたのだと思います。WiFiルータに実装する際は、Wave1やWave2が参照されます。
nとacで特徴的な機能としては以下のとおりです。
- MIMO
- チャネルボンディング
- 変調方式
MIMO
Multiple-Input Multiple-Outputの略で、同時に複数のストリームを送信し受信させます。nとacの最大の特徴です。
2ストリームを同時に通信する場合、送信側のアンテナ1つと受信側のアンテナ1つが通信し、送受信側それぞれにアンテナが2つあれば、2つの経路で同時に通信できるよねという理屈です。電波の干渉はどうするのという疑問は、空間分割多重化とビームフォーミングという技術で逆に活用していきます。空間多重化では、2つのアンテナ同士の通信経路が4つあることをうまく使い、オリジナルの2つのストリームを分離します。ビームフォーミングは、2つのアンテナから発せられる電波の位相のズレを利用して、電波に指向性をもたせる技術です。nでも仕様にありましたが使われず、acから使われ始め、MU-MIMO (Multi User MIMO)の要になっています。マルチユーザとある通り、acでは複数人が同時にMIMOで通信できます。nでは同時に一人しかMIMOできませんでした。
MIMOは簡単そうで難しい技術で、自分もふんわりとしか理解できてません。
チャネルボンディング
ボンディングは接着剤のボンドと語源が同じです。過去のbとgでは20MHzのチャンネルが複数ある感じでしたが、複数あるならくっつけて倍の速度を出そうという技術になります。そのままなので特に説明はいらないかと思います。そもそも複数チャンネルがなぜあるのかというのは、マンションのような狭い空間でいくつWiFiが飛んでも、異なるチャンネル(=周波数帯)で通信すれば干渉しないということです。
欠点として、使用できるチャンネルが半分以下になってしまいます。例えば、nの5GHz帯でいうと、本来は2MHzのチャンネルが19個あるので19人が干渉せず通信できますが、チャネルボンディングして1人40MHzで通信すると、9人しか通信できません。 acで最大の160MHzで通信すると2人しか通信できません。
変調方式
nでは64QAMが1つの波に情報を詰め込める最大の一次変調方式でした。acではその4倍詰め込める256QAMが仕様に盛り込まれています。QAM(Quadrature Amplitude Modulation)というのはPSK(Phase Shift Keying)とASK(Amplitude Shift Keying)の合体で、振幅と位相で信号を区別します。256QAMであれば、「届いた波の振幅がXで位相がYだから、(X, Y)の組み合わせ256通りのうち”01110110”を表すペアだな」となります。1つの波の細かな違いを識別するためには、SNRがある程度強くある必要があり、nとacではSNRによって使う変調方式が変わってきます。信号強度が十分なときにnでは64QAM、acでは256QAMが使われます。
ショートガードインターバル(SGI)
上3つと比べると地味ですが、後述するMCSで説明しやすくなるので紹介します。ガードインターバルというのはデータとデータを送る間のインターバルのことで、前後のデータ(電波)が干渉しないように800nsが設定されています。しかし、あとになって800nsは少し長いのではないかということで半分にした400nsが登場しました。送信間隔が短くなれば短時間に多くのデータを送れますが、干渉のリスクが高まります。
MandatoryとOptional
nでもacでも、ベンダーがWiFiルータを実装するに当たり、必ず実装しなくてはいけない機能(Mandatory)とそうでない機能(Optional)があります。
Mandatory | 802.11n | Wave1 | Wave2 |
---|---|---|---|
帯域 | 20 MHz | 20 / 40 / 80 MHz | 20 / 40 / 80 MHz |
変調方式 | 64QAMまで | 64QAMまで | 64QAMまで |
ストリーム数 | - | モバイル端末の場合1、そうでなければ2 | モバイル端末の場合1、そうでなければ2 |
ガードインターバル | 800 ns | 800ns | 800ns |
Optional | 802.11n | Wave1 | Wave2 |
---|---|---|---|
帯域 | 40 MHz | - | 160 / 80+80 MHz |
変調方式 | - | - | 256 QAM |
ストリーム数 | - | 最高3ストリーム | 最高4ストリーム |
ガードインターバル | 400 ns | 400 ns | 400 ns |
ビームフォーミングやMU-MIMOもOptionalです[1]。Optionalが実装されるかはメーカー次第で、acの理論値6.9Gbpsを実現するためにはOptionalである、160MHzと256QAMと8ストリーム全てが実装されていなくてはいけません。160MHzは実装されているプロダクトも出てきているようですが[8]、8ストリームが実装されたWiFiルータはおそらく世に出ていません。4ストリームですら極稀です。
手元の環境で実測
手元のPCからnとacの両方のwifiにアクセスしてみます。MACからだとaltキーを押しながらWiFiマークをクリックすることで、WiFiの接続状況がわかります。
MCSというのは設定の番号で、以下のサイトの図がとてもわかりやすいです。nの場合HT MCS Indexの行を、acの場合VHT MCS Indexの行を見ます。
MCSが15ということは、2ストリームで64QAMが使われているということがわかります。SNRが高い(ノイズに対してRSSIが高い)ので1番いい設定になっていそうです。転送レートが130Mbpsということなので、ショートガードインターバルとチャネルボンディングは使われていません。なぜ使われなかったのかはこれだけだとわかりませんね。
次にacを見てみます。
MCSが4と転送レートが78Mbpsということから、2ストリームの16QAM、SGIとチャネルボンディングは使われていない、ということがわかります。SNRが低いのであまりスピードが出る設定になっていませんね。
ちなみに、acのMCS4での理論値は78Mbpsですが、実効速度は14Mbpsでした。23時ごろに計測しましたが、そんな簡単には理論値はでなさそうです。
参考サイト
ac
[1] cisco, "802.11ac: The Fifth Generation of Wi-Fi Technical White Paper", 2018
[3] スループットの飛躍的向上を実現した「MIMO」と「MU-MIMO」 (1/2):解剖! ギガビット無線LAN最新動向(2) - @IT
[4] 【Wi-Fi高速化への道】(第5回)「IEEE 802.11ac」、256QAMやMU-MIMOをOptionalとしてサポート【ネット新技術】 - INTERNET Watch
[5] 802.11acのwave1とwave2って? 規格のまとめ - モバイルガジェット好きのブログ
[6] 802.11acとは
[7] 11ac 最新情報
[8] チャネルを束ねて無線LANの高速化、HT160について
n
[9] IEEE 802.11n-2009 - Wikipedia
無線LAN
[11] 無線LAN|基礎知識
[12] MCS index charts | Wireless LAN Professionals
電波系
[13] 変調のはなし(1)|Wireless・のおと|サイレックス・テクノロジー株式会社
[14] Wi-Fiの通信はこれで激変!チャンネル解説〜正しい設定方法
[15] 電波を使ったデータ伝送と変調 | 基礎知識 | ROHM TECH WEB
[16] Douglas E. Comer, "Computer Networks and Internets SIXTH EDITION", PEARSON Education Limited, p.207, 2015