dorapon2000’s diary

忘備録的な。セキュリティとかネットワークすきです。

example.comのTLS1.3ハンドシェイクを見てみる

example.comのTLS1.3ハンドシェイクを覗いてみます。

この記事を書くために、TLS1.3について別記事にまとめました。

dorapon2000.hatenablog.com

通信を覗く方法

下記のサイトのやり方でexample.comと通信するchromeの通信をWiresharkで覗きました。

【解析/Wireshark】https(SSL/TLS)を復号化する方法(SSLKEYLOGFILE),ブラウザで見る方法 | SEの道標

TLSハンドシェイク

以下のスクショは、実際にキャプチャしたTLSパケットです。

f:id:dorapon2000:20210406004132p:plain

見やすくシーケンス図にすると次のようになります。[]は暗号化済みのメッセージで外部からは中身を見ることができません。

http://www.plantuml.com/plantuml/png/hOzFIyD04CNl-HHp3ofux44AeTA3Y9ZWfUIm9A_TeVjddPrey-rTh8UA13pqCZ3pVeyViyvgH2VlgeF4AL7tr98rOSpM754rLg87tJmGJiOdXziXUbfHunX1QGldOdKP5VAdipgdz0gLkSpt2LcfBh491r33oKAeJHYMBNzGgl-dRY4Va3DKEhjD66HEYf4s9qLGZg5VBEyQYFAU1wFegVwrqnk4z_Ft-P43PuknNthW4a4ObuNF-AGMENCCrF5mXFPNWhTTzt9ttrVhuf-y-m80

翻訳版。

http://www.plantuml.com/plantuml/png/SYWkIImgAStDuKeloYyjK0Zn2LR8ICnBASv8p4xbSiueoizDLT2rKqYjICmjo4dLIyxFLR1I03HB1Za9Wq4KtdCgxu7iN7C6tZ-A8L8HZGfYn0QbW8Oc6YDAQm_p-jTsnHKS4IEI_AxTjJFJzxutK-A4c5BQb375fqGq2H4KjOiqyMqhp2LUHFtjgcruElXLrZwDeMaG0w9VU4z4az3A0T4cnZHpYj0yKmBAewrxnPcs0iBJ6TKhhLCer0fFUQH6MHgW-mTqXqO8uw9togUlzJmOi8RoTv8xc-pbGn2JJHbpdCrqu9nuKvYAKxESJxny5ArBwMlMESnwCsBq7Z_O8urjVgavivMpcqlzt4wRohg8eBxL7RTtTk_RtbKwloswd_VPM3mH_gp8l512QZPfQBOqJfRN6n8jufeu9NOh_y28ihywWFkXKjhIhUY__W40

Clinet Hello

Client HelloはサーバにTLS通信の開始を伝えるわけですが、暗号スイート以外の必要な情報は各拡張機能にいれておきます。

思ったより拡張の数が多かったので1フィールド+6拡張に絞って見ていきます(あんまり絞れていない)。

  • 利用できるTLSのバージョン(supported_versions)
  • 利用できる暗号スイート(Cipher Suitesフィールド)
  • 利用できる鍵交換アルゴリズムの提示(supported_groups)
  • 通信予定の鍵交換アルゴリズムのパラメータ(key_share)
  • 利用できる署名アルゴリズムの提示(signature_algorithms)
  • 今後PSKの交換をするかどうか(psk_key_exchange_modes)
  • 過去の通信で交換したPSK(pre_shared_key)

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supported_versions拡張

クライアント(ここではChrome)が対応しているTLSのバージョンを格納します。

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TLS1.0~1.3まで対応しているようです。もちろんクライアントとしては新しいバージョンで通信してほしいわけです。

Cipher Suitesフィールド

クライアントが対応している暗号スイートを格納します。TLS1.3はTLS1.2までとフォーマットが異なり、暗号化アルゴリズム共通鍵暗号)の部分だけが示されています。詳しくは僕の前の記事に書いています。

※Aはアルゴリズムの略です。

TLS1.2: TLS_鍵交換A_署名A_WITH_(暗号化A_鍵長_暗号利用モード)_ハッシュ関数
TLS1.3: TLS_(暗号化A_鍵長_暗号利用モード)_ハッシュ関数

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なるほど~。TLS1.2以前とTLS1.3の暗号スイートが混ざっています。このClient HelloがTLS1.3として解釈されたときは上の3つが、そうでないときは下のものが利用されるというわけですね。TLS後方互換性に配慮していることが見て取れます*1

ちなみにVersionフィールドがTLS 1.3ではなくTLS1.2なのも後方互換性のためです。TLS1.3では本当はVersionフィールドを消したかったみたいです*2

supported_groups拡張

クライアントが対応している鍵交換アルゴリズムを格納します。メッセージの暗号化に必要な鍵を交換するために使います。

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ECDHEのうち3つの楕円曲線に対応しているようで、逆に、DHEは提示していません。

x25519はTLS1.3から導入されたアルゴリズムで、新しいためまだ未対応のケースが多いようですが、さずがChrome様。対応済みです。

key_share拡張

TLS1.2では、鍵交換アルゴリズムを決定後に、アルゴリズムの計算に必要なパラメータを別の通信で送ります。TLS1.3では、そのアルゴリズムが使われるかわからないのに、Client Helloの段階で送ってしまいます。そうすることで、あわよくば通信に必要な往復を削減できるのが特徴です。

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ここでは、x25519が使われると想定して、そのパラメータを格納しています。どうなるでしょうか。

signature_algorithms拡張

クライアントが対応している署名アルゴリズムを格納します。サーバの認証に必要です。

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ECDSAとRSAに対応しているようです。鍵交換アルゴリズムでx25519に対応しているので、その署名アルゴリズムverのed25519にも対応していそうなものですが、提示されていませんね。謎です。

psk_key_exchange_modes拡張

TLS1.3ではセッションの再開にPSK(Pre-Shared Key)を使えます。PSKの共有方法は、前回のセッション中に交換するか、TLSスコープ外(手渡しとか?)で交換するかです。psk_key_exchange_modes拡張では、PSKの交換に対応しているか、PSKで接続を確立する方法を格納します。

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対応していました。PSKのみのセッション再開ではPFS(同じ鍵で過去の通信まで復号できないこと)がないため、PSKとECDHEを使ったハイブリッドな鍵交換でPFSを保証できるpsk_dhe_ke方式が指定されています。

pre_shared_key拡張

PSKが格納されています。キャプチャする前に試しにアクセスしているため、そのときに交換したものだと思われます。

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Client Helloまとめ

Chrome「サーバーさんサーバーさん

  • TLS1.3に対応してるよ!
  • こんな暗号スイートに対応してるよ!(雑)
  • x25519で鍵交換しようよ!
    • 無理でもsecp256r1とsecp384r1に対応してるよ!
  • RSAとECDSAで署名の検証ができるよ!
  • PSK対応してるよ!
  • PSK持ってるよ!

Hello Retry Request

クライアントが提示した鍵交換アルゴリズムのパラメータに対応していなかった場合、このメッセージでやり直しをさせます。

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Chromeはx25519のパラメータを送っていましたが、サーバはsecp256r1のものがほしかったようです。

Change Cipher Spec

TLS1.2では暗号スイートの変更の際に利用されたメッセージですが、TLS1.3ではHello Retry Requestがあるため不要なはずです。なぜChange Cipher Cpecを送信しているのかはよくわかりません。

  • The server sends a dummy change_cipher_spec record immediately after its first handshake message. This may either be after a ServerHello or a HelloRetryRequest.

https://tools.ietf.org/html/rfc8446#appendix-D.4

ミドルボックス互換性のためのようです。

2度目のClient Hello

Chromeは署名アルゴリズムのパラメータとしてsecp256r1のものを送って再挑戦します。

Client Helloが更新された際のPSK

In addition, in its updated ClientHello, the client SHOULD NOT offer any pre-shared keys associated with a hash other than that of the selected cipher suite.

https://tools.ietf.org/html/rfc8446#section-4.1.4

Hello Retry Requestが送られたあとはPSKによるセッションの再開ができない可能性があるようです。

今回はそのパターンのようで、セッション再開されていればやり取りされないはずのCertificateとCertificate Verifyがあります。

Server Hello

クライアントが提示したアルゴリズムリストから1つづつアルゴリズムを選んでクライアントに教えます。 よく考えるとHello Retry Requestと同じ事をしており、実際に中身もほぼ同じなので省きます。

Encrypted Extensions

鍵交換/署名/暗号化アルゴリズム同意後であれば、それ以外の情報はもう暗号化して隠せます。なのでTLS1.3では、Server Helloとは別でEncrypted Extensionsがあります。

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ALPNはHTTP通信のバージョンの合意をとるプロトコルで、クライアントがh2(HTTP/2)で通信したいと提案してきたので、対応しているサーバもh2を返しています。

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こちらがClient Hello内にあったALPNプロトコルです。

Certificate

サーバの認証に必要な証明書チェーンが格納されています。

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ブラウザからも見られます。

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Certificate Verify

サーバの認証に必要なデジタル署名が格納されています。証明書チェーンとセットで使われます。

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署名アルゴリズムrsa_pss_rsae_sha256が指定されていました。

Finished

クライアントもサーバもハンドシェイクの最後はFinishedを送り、今までのやりとりが改ざんされたものでないか検証をします。

TLS Session Ticket

PSKの計算に使うチケットをサーバ側から任意のタイミングでクライアントに通知します。Client Hello時のpsk_key_exchange_modes拡張で、クライアントがPSKに対応していることをサーバは確認済みです。

今回は連続で2つのチケットを送信していますが、なぜかはわからないです。

まとめ

1つ1つ調べるのが大変でしたが、TLS1.3について理解が進みました。別のサイトについてモチベーションが保てていれば見ていきたいと思っています。

参考

*1:https://tools.ietf.org/html/rfc8446#appendix-D

*2:PDF版プロフェッショナルSSL/TLS 付録A